『手の中にあるはずの価値』

2012年11月14日更新


東奥日報 12月10日版掲載原稿 「あおもり経済散歩道」

●先日葉加瀬太郎のコンサートに行きました。彼は仕事でバイオリンを弾いているはずなのに、彼の「仕事(音楽)に対する愛情」がビンビン伝わる時間でした。翻って、私を含めた大人たちの仕事ぶりは、若者から見て充実しているように見えるのだろうか?と考えてしまいました。

●厳しい現実の前で気力の出なくなった学生に対する対応こそが難しい、という大学の話を前回紹介しました。その通りと思いつつ、一方で若者にも同情します。疲れた親や大人たちを見て、夢を持ったり志を高くするのは、とても大変だと思います。大人が充実した時間を過ごすことのできない社会に、若者がイキイキ参加したいはずもありません。そのような大人しかいない職場の定着率が上がらないのは、ある意味当然です。

●日本は1億程度の人口で資源もない敗戦国ながら、世界有数の『豊かな』国になりました。先人が半世紀かけて築いた『豊かさ』が、いま曲がり角に来ていると思います。便利であっても若者の半分以上が正規雇用されない社会や、大人が働くことに充実感を感じられない社会が本当に豊かなのか?安定しているといわれる職業の人たちも心の病を患うのはなぜなのか?今、私たち一人一人が「手の中にあるはずの価値」が本当に確かなものなのか、一度疑う勇気を持つことが必要だと思います。私は恩師から「君は自分の人差し指をどんな向きにも向けることができる。でも同じその瞬間に、同じ人差し指で別のどこかを指し示すことはできない。新しい一歩を得るということは、決断した以外の可能性を捨てることだ。その勇気があれば、次の新しい価値にたどりつける。」と教えられました。バケツの中に入っているなにかを一旦捨てないと、そのバケツで新しい水は汲めないのです。

●今年の日本は震災と原発事故、台風や大雨などの自然災害に加え、TPPという社会構造を変えかねない決断まで迫られた激動の1年でした。私の次稿は新年になります。新しい年に復興と再生の願いを込めて、長い道のりに立ち向かう宮古の有志との連携を紹介します。